その他令和8年3月23日
警備業法3条1号の違憲性及び立法不作為に関する裁判官の意見(宮川美津子裁判官反対意見等)
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警備業法3条1号の違憲性及び立法不作為に関する裁判官の意見(宮川美津子裁判官反対意見等)
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(国家賠償法上違法か否かの問題)をはっきり分けてしまうと、相乗効果(シナジー効果)は、憲法適合性の問題において論ずべきものであって、違憲の明白性との関連性は一見希薄のようにみえる。しかし、私は、憲法適合性の問題と違憲の明白性の問題は一つながりの相互に影響し合うものと考えている。つまり、ある規定が違憲とされても、その違憲性の程度には強弱があり(当審判例で違憲とされた旧優生保護法の規定と本件規定を比べてみれば明らかである。)、違憲の明白性を判断する客観的状況(問題となった規定や他の関連規定のありようなど)にも濃淡があるから、事案によっては、上記客観的状況からは一義的断定をするのに躊躇されるようなところがある場合であっても、違憲性の程度が高ければ違憲の明白性を肯定できることもあり得ると考えている。そうすると、違憲性の程度を高めることにつながる相乗効果(シナジー効果)は、違憲の明白性を審査する段階でも関連性があるということになるはずである。
(4) 本件規定の明白な違憲性を是正するための長期間の立法の怠りについて
違憲であることが明白になっている法律がある以上、国会がこれを直ちに是正しなければならないことは当然の義務であるところ、本件規定の違憲を是正するには、既に平成14年改正法で7号規定として相対的欠格事由(個別審査規定)が導入されているのであるから、警備業法3条1号から「被保佐人」の部分を削ることで足り、これに伴う他の規定の整備も不要であって、立法技術的には容易であるといえる(現に一括整備法はそうしている)。
そうすると、平成14年改正法の施行により違憲が明白になった以上、その後更なる障害者の権利擁護と障害者に対する配慮の高まりの中で、警備員について被保佐人をその精神上の障害を理由に一律に排除すべき必要性を基礎付ける事情も生じていないことから、一括整備法の施行まで15年余りもの期間にわたって国会が本件規定の改廃を怠ったことは不合理であったというべきである。
平成14年改正法の施行以来、取り分け平成28年の利用促進法の施行後、他の多くの法令中に存する被保佐人に係る一律の欠格事由を相対的欠格事由(個別審査規定)に改正する検討作業が続けら
れ、一括整備法でそのほとんどが実現するに至ることになる。他法令の改正準備がそろうのを待って一括して規定を整備するというのは、法制上も行政運営上も、障害者のノーマライゼーションとインクルージョン、成年後見制度利用促進等の諸政策を包括して実現するためには合理的な面があるのは否定できないが、そうであるからといって既に相対的欠格事由(個別審査規定)が導入されているためにその必要性がなくなっている規定について個別の法令ごとに別途その改廃を要する特別な事情があるか否かを検討しなくても良いということにはならない。近代憲法の最も重要な要素の一つであり、我が国の憲法もこれをうたう平等保護原則及び職業選択の自由が不合理に損なわれている者が現にいることが法令の規定内容自体に表れている状況が生じている以上、障害者を取り巻く国民の意識の変化を考慮するとしても、障害者を不合理に差別しても良いなどという意識がもともとあるはずもないのであって、本件規定を削るについても、他の諸法律の規定と同じトラックを走らせず、障害者の憲法上の権利利益を回復する措置を、法体系全体を通じた一括の改正や障害者権利条約の国内法制度全般への包括実施のための整備を待たずに、別途必要なところに講ずるべきであった。
裁判官宮川美津子の反対意見は、次のとおりである。
私は、本件退職時点において、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反していたという多数意見の判断については賛同するものであるが、多数意見とは異なり、遅くとも平成14年改正当時においては、本件規定は憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っており、また、遅くとも平成23年7月の障害者基本法改正当時には、本件規定が憲法の規定に違反することが国会にとって明白となっており、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるべきものであると考える。その理由は、以下のとおりである。
1 本件規定の憲法適合性について
(1) 判断枠組み等
本件においては、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるか否かが問題となるが、私も、多数意見が引用する最高裁平成27年12月16日大法廷判決(再婚禁止期間違憲事件判決)等の判断枠組みに基づいて違憲性を判断することに異存はない。そこで、本件立法不作為
が違法の評価を受けるか否かについて判断するためには、どの時点で本件規定の違憲性が明白となり、その時点から本件退職時点まで国会が正当な理由なく長期にわたり本件規定の改廃を怠ったといえるかを検討することになるが、本件規定の違憲性が明白になった時期を判断する前提として、本件規定が違憲となった時期についても検討する。
そして、本件規定の憲法適合性に係る判断枠組みについても、多数意見の第2の2に説示されたところに異存はない。この点については、多数意見が挙げる事情のほか、職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動というだけでなく、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人的人格的価値とも不可分の関連を有するものであり(多数意見が引用する最高裁昭和50年4月30日大法廷判決)、平成5年改正障害者基本法(平成14年改正当時に適用された障害者基本法)が掲げた、すべての障害者が、社会を構成する一員として、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする基本理念(同法3条2項)は、職業選択の自由を国民に保障した憲法の理念に沿ったものと評価できることを指摘することができる。
多数意見は、本件退職時点において、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたとする一方、平成14年改正の当時においては、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできないと判示する(多数意見第2の3(2))。しかし、私は、遅くとも平成14年改正の当時には、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたと考える。そのように判断するに当たり考慮した平成14年改正に至る経緯、障害者のための施策に関する国内外の動向、我が国の立法状況等は、多数意見第1の3(1)及び三浦裁判官の反対意見第1に記載されているとおりである。
(2) 本件規定の立法目的
本件規定の目的は、多数意見が判示するとおり、警備業務が他人の生命、身体、財産等の安全を守ることを内容とする業務であることに鑑み、警備業務の実施の適正を図るとともに、依頼者及び第
三者から警備員としての信頼を確保し得る者が警備業務に従事することを担保することにあると解される。このような立法目的自体は、重要な公共の利益に合致するものといえる。
(3) 本件規定の必要性、合理性
ア 平成11年整備法により禁治産者及び準禁治産者であることを欠格事由とする規定の見直しが行われ、参議院法務委員会において平成11年整備法に係る法律案が可決された際に附帯決議(以下「平成11年附帯決議」という。)がされたことは、多数意見第1の3(1)イに記載のとおりである。
これに加えて、改正前の禁治産・準禁治産の制度は、「治産を禁ずる」という用語の否定的な意味合いや、多数の法律中の禁治産者等に係る欠格条項の存在から、利用者を社会から排除する制度であるかのように国民に誤解され、また利用者である知的・精神障害者等に対する社会的な偏見を助長するものと批判されていたのに対し、平成11年の成年後見制度は、精神上の障害(精神障害、知的障害、認知症等)により判断能力が不十分な者について、自己決定権の尊重、残存能力の活用、障害者が障害を持たない者と同等に生活し、活動する社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念等、障害者のための施策についての新しい理念を取り入れて創設された制度であったことを指摘することができる。
ところが、かかる新制度の発足を受けて行われた平成11年整備法による禁治産者や準禁治産者に係る欠格条項の見直しでは、禁治産者又は準禁治産者であることを欠格事由とする158の規定のうち、結果として116が「成年被後見人」、「被保佐人」に名前を変えて、旧来通り絶対的欠格条項として残置されたのである。平成11年整備法の国会審議の経過を補足すると、衆議院及び参議院の各法務委員会においては、このような政府の方針に対し、複数の委員から、それぞれの法令の中に能力を個別に審査する規定を設ければ足り、禁治産者等であることのみを理由に職業から排除するのは前近代的な発想であるから、残存する116項目の欠格条項についても次の見直しの際に再検討されたい旨の発言や、欠格事由を残すと老人や障害者への偏見を助長し、社会参加が妨げられるとの批判が出ているとの発言があった。さらに、成年後見制
度の意義として、禁治産者、準禁治産者という負のイメージを払拭して、皆が負い目を感じずに使える新しい制度を作ろうということであれば、欠格条項ではなく、できる限り個別に判断していこうという方向性が正しいのではないかとの質問に対して、政府参考人から、基本的にはそのような考え方で正しいと思うが、個別の具体的な問題になると、立法的には様々な価値があるので、それを調整させた結果が現在の整備法の内容であるとの回答があった。このような審議の結果として、政府及び最高裁判所は、新たな成年後見制度の実施にあたり、成年被後見人又は被保佐人であることを欠格事由とする116件の資格制限規定については更なる見直しを行うこと等についての格段の努力をすべきである旨の平成11年附帯決議が全会一致で可決されたのである。
イ その後、平成11年決定に基づく障害者に係る欠格条項の見直し作業の一環として、平成14年改正により警備業法の「精神病患者」に係る欠格条項の見直しが行われたことは、多数意見第1の3(1)ウのとおりであるが、平成14年改正法の国会審議の経過を補足すると、同国会では、障害者に係る欠格事由の多くは、憲法13条や14条、また国連の様々な宣言や障害者基本法の理念に反するとの意見が出され、また政府参考人から、昭和57年警備業法改正当時、精神病患者であることを欠格事由とした理由は、精神病患者等が他人の生命、身体又は財産を侵害することも考えられ、適正な業務運営が期待できないという判断によるものであったが、現在(平成14年改正の審議当時)の政府の考え方として、精神病患者一般について、適正な警備業務の管理運営、実施を期待し得ないという考えは全く持っておらず、あくまでも個別具体的なケースに応じて能力を判断していくべきものと考えている旨の説明があった。また、「精神病患者」に係る欠格条項は改正ではなく廃止すべきであるとの議論の中で、政府としては、警備業者等が人の生命、身体又は財産を守る業務に直接携わるものであることから、一定の欠格事由は国民生活の安全を守るためにも必要と考えること、しかし、今回の改正では、精神病患者を一律に排除するというのではなく、業務を適正に行うことができるかどうかという点に着目して相対的な欠格事由に変更するという立場であることが説明されている。
ウ 平成14年改正によって7号規定が設けられた後は、保佐の制度の対象となる「精神上の障害」(民法11条)を持つ者は、7号規定の対象となる「精神機能の障害」を持つ者に含まれるということができるのであるから、警備業者が警備員を採用する際には、被保佐人についても、保佐の制度を利用していない障害者と同様に7号規定により個別審査を行って、警備業務を適正に行う能力があるかどうかを判断することが可能となった。したがって、平成14年改正で7号規定を追加したことにより、警備業者が警備員を採用する際に、保佐の制度を利用していない精神機能に障害を有する者を7号規定で個別に審査する一方、被保佐人であれば、警備員として適切に業務を行う能力を有する者も含め、本件規定で一律に排除するというような区別をする合理的な理由は認められなくなり、本件規定の必要性や合理性は失われたと考えられる。
エ 多数意見は、7号規定は、規則3条1項の規定を併せて考えると、精神機能の障害により判断能力が低下した者を対象とする規定であるということはできるものの、保佐開始の審判のように公的機関により判断されるものではなく、判断の基礎となる資料の収集、分析、評価を含め、警備業者の自発的判断に委ねられているものであるため、本件規定がなくともその立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかを直ちに見極めることは困難であったというべきであるから、平成14年改正の当時においても、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできないと判示する。
しかし、保佐開始の審判が公的機関による判断であるといっても、保佐を含む成年後見制度は、財産管理・身上監護に関する制度であり、家庭裁判所は財産管理能力の有無を審査するのであって、保佐開始の審判において判定される能力は、法律行為の利害得失を判断することのできる能力の有無及びその程度であり、それ以外の能力については判断されていない。成年後見制度の下で要求される財産管理能力と事実行為である警備業務を適切に遂行する能力とは質的に異なるものである。したがって、保佐開始の審判において、警備
業務を適切に遂行する能力を的確に判定し得るものではない。本件規定は、警備業務に必要とされる能力の内容に応じて個別的・実質的な審査を行う代わりに、家庭裁判所により後見開始の審判を受けた事実を借用するもので、本件規定があれば、被保佐人を全て警備員から排除することにより、警備業者の個別審査の在り方や正確性を問わず警備員としての能力に欠ける者が採用されることを防止できるであろうという安心感から利用されているといえるが、警備業務には多様な業務が含まれており(警備業法2条1項各号)、被保佐人であるからといって全ての警備業務が適切に遂行できないというわけではない。実際、被上告人は、軽度の知的障害を有しながら、同法3条7号に該当しないとの診断書を提出して警備員に採用され、警備会社との雇用契約に基づき、交通誘導に係る警備業務に従事していたが、保佐開始の審判が確定したことにより雇用契約が終了したのである。したがって、本件規定については、警備業務を行う能力のある被保佐人を警備員から排除する可能性を含み、過剰な規制になっていたといえる。
また、平成14年改正の国会審議において、多数意見が挙げるような7号規定の実効性への懸念が示されていた形跡はうかがわれない。そして、本件規定があることでどれだけの不適格者をスクリーニングできていたのかは明らかではなく、仮に平成14年改正の時点で本件規定が削除されたとした場合に、それまで排除されてきた不適格者がどの程度排除できなくなっていたのかも明らかではない。そもそも、保佐の制度の対象者となり得る精神上の障害者のうち、実際に保佐の制度を利用している者の数はかなり少ないと認められることから、平成14年当時、被上告人のように、知的障害を持ちながら保佐の制度を利用していない者が警備員への就労を希望するケースがあったことは十分考えられ、その場合、警備員としての適格性は警備業者の自発的判断に委ねられていたのである。そのような警備業者の個別審査の結果、精神上の障害を持つ不適格者が採用され、事件や事故を起こしたといった事実は本件では提示されていない。
国会が7号規定による警備業者の自発的審査の実効性に対する懸念から本件規定を残置したのであれば、それは、警備業者の審査能力を不当に過小評価するものである。警備業者は、警備業法に基づき、公安委員会の監督の下に置かれ、所要の
法的規制を受けているところ、欠格事由に該当する者を警備業務に従事させてはならないとされており(警備業法14条2項)、警備員が欠格事由に該当しないことについて、一般私人として可能な範囲で必要な調査をしなければならない。公安委員会は、警備業者又はその警備員が、警備業法若しくは同法に基づく命令等に違反した場合等において、警備業務の適正な実施が害されるおそれがあると認められるときは、当該警備業者に対し、当該警備員を警備業務に従事させない措置その他必要な措置をとるべきことを指示することができる(48条)、また、当該警備業者の営業の全部又は一部の停止を命ずることができる(49条1項)。さらに、罰則(56条から60条まで)により警備業者が警備業法その他の法令を遵守することや公安委員会の監督の実効性を担保している。そして、一定の前科のある者や暴力団関係者等を警備業者の欠格事由とすることに加え、「最近5年間に、警備業法の規定や、同法に基づく命令の規定等に違反した者」を欠格事由とすることによっても(3条3号)、警備業者による法令遵守を担保している。したがって、国は、本件規定がなくとも、警備業法に基づき、警備業者に対し適切な規制、監督を行うことにより、警備業者が、警備業務を適正に行うことができない者を警備員として採用しないよう確保することも十分可能であったといえる。実際、平成14年改正の後、警備業者は、その営業所において、警備員の欠格事由に該当しないことを誓約した書面に加え、当該警備員が欠格事由に該当しないことを確認するために講じた措置を記載した書類を備え付けることとされ(警備業法45条、警備業法施行規則(昭和58年総理府令第1号)66条1項2号)、欠格事由に該当する者が警備員として警備業務に従事することの防止が図られている。
多数意見が指摘するように、警備員の適格性を警備業者の自発的判断に委ねると、不適格な警備員が採用され、利用者の安全や財産を害するおそれがあるとしても、それがどの程度のものであったか明らかではなく、平成14年改正当時において、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることに関する立法府の判断の合理性を肯定し得るような事情や立法事実は認められない。
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