その他令和8年3月23日
裁判官尾島明の反対意見(被保佐人の警備員欠格条項に関する憲法適合性及び立法不作為の違法性について)
出典:官報発行サイトの掲載情報を加工しています。AI 抽出や OCR に誤りが含まれる可能性があるため、 重要な確認は公式原文を基準にしてください。
本文と原文の対照
まず左側の本文を読み、必要な箇所だけ原文ページで確認できる構成です。
← 同日の官報に戻る
原文対照の表示オプション
裁判官尾島明の反対意見(被保佐人の警備員欠格条項に関する憲法適合性及び立法不作為の違法性について)
本文はAI抽出です。左の段落を選ぶと、右側の官報原文画像で該当箇所を照合できます。
配慮した必要な措置を講じなければならないこと(障害者雇用促進法36条の2)等を前提にすると、上記欠格条項は、合理的な配慮の提供との関係が明らかではなく、障害者の機能障害に偏ったものとなっている。
障害者権利条約に基づいて設置された障害者の権利に関する委員会は、我が国に対し、心身の故障に基づく欠格条項等の廃止を勧告しており(2022年(令和4年)10月「日本の第1回政府報告に関する総括所見」)、障害者基本計画(第5次)(令和5年3月)においても、心身の障害等により制限を付している法令の規定(いわゆる相対的欠格条項)については、真に必要な規定か検証し、必要に応じて見直しを行うものとされている。
この問題に関する長い歴史に鑑み、適切な対応が望まれる。
裁判官尾島明の反対意見は、次のとおりである。
1 私は、本件規定が本件退職時点において憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたとする多数意見の結論には同調するものの、その理由付けの部分については一部見解を異にするところがあり、また、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法でないとする多数意見には賛同することができない。そして、原判決はその結論において是認できるので、本件上告を棄却すべきであると考える。以下、その理由について述べる。
2 本件規定の憲法適合性について
本件の憲法上の争点は、被保佐人であることを警備員の一律の欠格事由としていた本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するか否かというものであり、これはすなわち、精神上の障害があることを理由に被保佐人が警備員という職業を選択することを一律に制限する法律の規定が憲法上許されるか否かという問題である。このような問題設定自体から明らかなように、平等保護原則と職業選択の自由という二つの憲法上の基本的価値に対して法律が制限を課すことの可否をどう判断するかが問われている。
このような本件規定の憲法適合性を審査するに当たって、原判決(第1審判決も同様)は、まず憲法22条1項違反の有無を精査し検討し、その違憲性を説示した後、更に憲法14条1項にも違反することを簡潔に判示している。憲法22条1項と14
条1項に関する憲法適合性審査の在り方ないし考慮すべき観点については、当審の判例がそれぞれその手法を判示していることから(多数意見参照)、原告もそのような手法を採用しているのであろうが、上記のように、本件規定の憲法上の問題が「精神上の障害を理由に職業選択の自由という基本的な権利の享受が不合理に差別されているか」ということにある以上、多数意見のように、本件規定の憲法22条1項及び14条1項の適合性は、併せて検討するのが妥当である。
近代憲法が達成した大きな成果の一つが、身分等によって固定されていた職業をその制約から解放したことにあり、これが社会を豊かにすることに貢献したことは、歴史の教えるところである。
このように職業選択の自由と結び付いた平等保護原則は、最も重要な憲法原則の一つであるから、これを制限する法令の憲法適合性を審査するに当たっては、憲法22条1項及び14条1項に適合するか否かの検討・判断を別個に設定したそれぞれの審査基準等に照らして行うのではなく、それらを併せ一まとめにして行うべきである。また、職業選択の自由という個人の自由権の保障及び平等保護原則という憲法が体現している基本的価値に照らして当該法令をみていくことによって、そこには二つの基本的価値の統合による相乗効果(シナジー効果)が生まれるといってよく、その結果、多数意見のいう「規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する」という要件についてもこれを満たすか否かは、抽象的、観念的に行われる想定からだけでなく、具体的な事情を踏まえて厳しく審査することが要求されることになるだろう。
このような観点から本件規定をみると、これが本件退職時点において憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたとする多数意見の結論に異存はない。もっとも、多数意見が平成11年整備法により本件規定が作られてからその後の法制定や社会状況の変遷を踏まえて、これらが本件規定の憲法適合性判断に影響してくることを判示する箇所のうち、平成14年改正を経た本件規定が当時合憲であったとする部分について、私は賛同することができない。問題となった規定の特定の時点における憲法適合性を判断すれば足りる事案とは異なり、本件のような立法不作為の違法を理由と
する国家賠償請求事件にあっては、どの時点で本件規定の違憲性が明白になり、そこから国会が長期にわたって正当な理由なく本件規定の改廃等の立法措置を怠ったかを審理し、判断しなければならない。私は、その判断につながっていくことから、多数意見の平成14年改正を経た当時の本件規定の合憲判断に賛同することができないのである。この点については、上記のように「規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置である」か否かを、具体的事情を踏まえて厳しく審査しなければならないと考えることから多数意見との違いが生じてきているものと思われる。この点は、後記3でより詳しく述べるとする。
3 本件立法不作為の国家賠償法上の違法性について
(1) 国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反し、国家賠償法上違法となるのは、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などである(多数意見が引用する最高裁平成27年12月16日大法廷判決)。
(2) 違憲の明白性の概念とその判断要素
上記の場合における違憲の明白性は国会議員にとってのものであるが、これについての国会議員の認識は、個々のあるいは多数の国会議員の現実の主観的認識ではなく、立法を担う国の機関である国会を構成する国会議員が憲法遵守義務を負う合理的立法者として、違憲の法律を是正するため、付与された権限を行使しなければならない客観的状況があったか否かという観点から判断される規範的なものと考えるべきである。
こういうことからすると、違憲の明白性の有無を判断するに当たって最も重要な要素は、立法機関の構成員である国会議員が制定した又は制定しようとする法律の規定内容自体(過去からの立法状況も含めて)のありようである。例えば、最高裁令和5年(受)第1319号同6年7月3日大法廷判決・民集78巻3号382頁は、立法行為が明白に違憲であったとしてその国家賠償法上の違法性を認めたものであるが、国会が全会一致で制定した旧優生保護法の規定内容について、侵害された憲法上の権利の重大性や侵害の過酷さが当該規定内容自体に表れているので、これだけで、当時
の国会議員らが具体的、主観的にどう認識していたかにかかわらず、上記の合理的立法者基準により規定内容の違憲が明白であったといえるものと解される。
また、問題となった規定内容以外の関連する他の法令(条約を含む。)の制定や改正等に向けてされた取組、議論等の客観的状況も、立法行為を支えるものとして、当然に合理的立法者であれば考慮すべきであるといえる。
この点に関連して、問題となった規定の合憲性について疑問を表明する裁判例や学説の存在はどうだろうか。もちろん当該規定や類似の規定を違憲とする裁判例や学説があれば、合理的立法者としては当然これらの内容を精査すべきであるといえるが、これらの存在は違憲の明白性を基礎付ける必須の要素であるとはいえず、これらの意見がまだ表明されていなかったからといってそのことが違憲の明白性を否定する積極的な理由にはならないというべきである。裁判例に関しては、本件のような事案に即していうと、被保佐人が警備員の職に就くことを希望したり、既に警備員の職に就いている者が保佐開始の審判を受けることを希望したりした場合に、あらかじめ国を被告として本件規定の違憲確認を求める訴訟を提起して目的を達することには事実上も法律上も困難が伴うから、裁判実務上本件規定の違憲をいう裁判例が現れる可能性はおのずと少なくなろう。被上告人のように職を失うことが法律上明らかであるのにあえて保佐開始の申立てをする者が現れて、初めて本件規定の憲法判断をする裁判例が生まれ得たといえる。また学説に関しては、ある法令の規定の憲法適合性に関心や疑問を示す学説が存在しなかったことが、現に当該規定により権利を侵害されている者の権利行使の範囲を狭めることになると考えることもできない。
(3) 本件規定の違憲が明白となった時期
違憲の明白性は、上記(2)のように規定内容自体その他客観的な要素で判断されるものであるから、特定の時点におけるその存在が認定判断できることもあり得るが、違憲判断の基準時における立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無として問題になる場合においては、違憲が明白になった時点が一時点に特定されなくても、遅くとも違憲
p.181 / 2
読み込み中...
テキスト領域
選択中
非公開 (PII)