その他令和8年3月23日

裁判官安浪亮介の意見(障害者権利条約と国内法整備に関する違憲判断時期について)

掲載日
令和8年3月23日
号種
号外
原文ページ
p.175 - p.178
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裁判官安浪亮介の意見(障害者権利条約と国内法整備に関する違憲判断時期について)

令和8年3月23日|p.175-178|原文を見る

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こうした委員会の見解、勧告は法的に締約国を拘束するものではないが、委員会による見解の表明、それに至るまでの締約国と委員会とのやり取り、委員会の指摘事項に対する締約国の対応といった過程を経て、条約の解釈に対する各締約国の考え方が展開してきている側面があることは否定できず、我が国も例外ではないと考えられる。
我が国は、条約作成に当たっては、障害者や障害者団体の協力も得て、その起草段階から参加しており、署名の後は、批准に向けた取組を進める上で、諸外国における法制事情調査も入念に実施している。我が国に対する委員会の総括所見が出されたのは令和4年10月であるが、そこに至るまで、政府報告の提出(平成28年6月)、これを踏まえた委員会からの質問への回答提出(令和4年5月)、ジュネーブにおける委員会との間の建設的対話の実施(同年8月)、といった一連のプロセスを跡付けることができる。
3 平成23年の障害者基本法改正が、障害者権利条約で明確にされた障害者に関わる新たな人権像を基本理念として反映したものであることは、上述したところであるが、平成25年に制定された障害者差別解消法も、こうした基本理念を踏まえ、7条、8条において、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を禁止している。さらに、同年に改正された障害者雇用促進法は、34条、35条などにおいて、労働者の募集・採用時等における障害を理由とする差別の禁止を明確にしているが、その審議過程においては、こうした法改正が障害者権利条約の批准に向けて重要であることが指摘されている。
また、成年後見制度に関連して、平成28年に制定された利用促進法は、3条1項において、成年後見制度の利用の促進が、成年被後見人等が成年被後見人等でない者と等しく基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきであるという理念等を踏まえて行われることとし、11条において、成年後見制度の利用の促進に関する施策は、成年後見制度の利用者の権利利益の保護に関する国際的動向を踏まえ推進するものとしている。こうした内容に鑑みれば、同法は、成年後見制度の利用促進を目的とするとともに、同制度の運用を障害者権利条約の趣旨、理念に沿ったものとすることを目指すとの側面もあったと考えられる。
もとより、一連の法整備、法改正は、国内におけるさまざまな議論を経て我が国が主体的判断を行った結果ではあるが、我が国と障害者の権利に関わる国際社会の様々なプレイヤーとの間の一連の相互作用を経た結果でもあり、そうした相互作用を捨象して考えることは適当でない。
4 多数意見が指摘するとおり、障害者権利条約が採択され、国内法の整備を経て条約が批准に至ったという一連の動きとあいまって、障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、障害者の権利の保障の在り方が大きく変容しており、これにより、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至ったものであるが、そこに至るまでに、我が国と国際社会との間には、以上で述べたような相互作用が生じ、障害者の権利保障の在り方に関する国内の議論に反映されてきたということができる。そして、上記のような一連の動きが生じた時期との関係を踏まえると、障害者の権利の保障の在り方が大きく変容し、本件規定が違憲となるに至ったのは、本件退職時点に相当近接した時点であったというべきである。 また、このような我が国と国際社会の相互作用といった一連のプロセスを考えれば、上記時点において、本件規定は、障害者権利条約とも整合的でないものとなるに至っていたということができよう。
裁判官安浪亮介の意見は、次のとおりである。
1 私は、本件規定が平成29年3月(本件退職時点)において憲法22条1項及び14条1項に違反しており、国会が同時点までに本件規定を改廃する立法措置をとらなかった本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとする多数意見の結論については賛同するが、国家賠償法上の違法性をめぐる点において多数意見と一部見解を異にする。その理由は次のとおりである。
2 まず、前提として、私が、本件規定が憲法の上記規定に違反するに至ったと考える時期やその間の経緯等について述べる(本件規定の憲法適合性に関する多数意見の第2の2から4までの説示については異論がない)。
我が国では、平成19年9月の障害者権利条約の署名を経て(平成26年1月批准)、平成21年12月に障がい者制度改革推進本部が政府に設置され、
平成23年7月に障害者基本法が改正され、平成24年6月に障害者総合支援法(旧障害者自立支援法)が改正され、平成25年6月に障害者差別解消法が制定(平成28年4月施行)され、障害者雇用促進法が改正されるなどした。この障害者差別解消法は、1条において、「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有する」ことを踏まえ、障害を理由とする差別の解消を推進すべきことを定め、6条において、政府はそのための基本方針を定めるべきものとし、7条及び8条において、行政機関等及び事業者に対して「障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」と定めるとともに合理的配慮を行うことを義務付けた。
また、成年後見制度についても、適切な利用促進の観点から成年被後見人等に係る欠格条項について見直し等を求める議論が行われたこと(平成22年7月の「成年後見制度研究会」(財団法人民事法務協会)の研究報告の発表や同年10月の「成年後見制度に関する横浜宣言」の採択)を背景に、平成25年東京地裁判決(成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた公職選挙法の規定は憲法15条1項、3項等に違反し無効であるとしたもの)を受けて、成年被後見人に選挙権を付与するために公職選挙法が直ちに改正され、平成28年4月に利用促進法が制定(同年5月施行)されるなどした。この利用促進法は、成年後見制度の利用促進に関する施策を推進することを目的とするものではあるが、3条1項において、障害者差別解消法1条と同じく、「成年被後見人等が、成年被後見人等でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと」を基本理念の一つとして定め、11条書きにおいて、上記施策は「成年後見制度の利用者の権利利益の保護に関する国際的動向を踏まえる」ものとし、同条2号において、「成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを
行うこと」を基本方針の一つとして定め、9条において、「政府は、(中略)成年被後見人等の権利の制限に係る関係法律の改正その他の同条(11条を指す。)に定める基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上の措置については、この法律の施行後3年以内を目途として講ずるものとする」と定めた。
上記のように、国会は、主に平成23年以降、障害者の権利保障と成年被後見人等に対する権利制限の縮減等を推進するための法整備を着実に積み重ね、障害者差別解消法及び利用促進法が施行された平成28年には、成年被後見人等をはじめ精神上の障害を有する者につき、法律の規定上、正面から「基本的人権の尊重」、「個人の尊厳」、「不当な差別的取扱いの禁止」等といった憲法の人権理念に関わる文言を揃って用いて、その人権が侵害されないように必要な施策を講ずるべきことを国の基本方針として明らかにするに至った。そして、上記のとおり、利用促進法が基本方針の一つとして既存の権利制限条項について検討を加えて必要な見直しを早期に行うべきことを定めたこと(11条2号、9条)の根底には、必要な立法措置が講じられないままでは人権侵害が生ずる場合があるとの認識があったものと捉えるべきである。そのように解するのでなければ、同法が「成年被後見人等の権利に係る制限」といった文言を用いて、成年被後見人等について権利の制限がされている現状について早急にその見直しを行うべきことを求めたことの意義が没却されることになりかねない。さらにいえば、令和元年の一括整備法の制定等によって本件規定を含む多数の権利制限条項が一斉に削除されるに至ったのは、それまでの障害者の権利保障と成年被後見人等に対する権利制限の縮減等の推進に関する法整備の積み重ね等を踏まえた国会の合理的判断の下に、利用促進法9条の規定に従い、憲法の人権理念を速やかに実現しようとして行われたものと位置付けて理解すべきであろう。
以上の事情を踏まえて考えると、国会によって上記一連の法整備が進められた平成28年頃の時点では、既存の権利制限条項の中には、憲法の人権理念に反するものが相当数存在する状況になっていたものといわなければならない。
3 そして、本件規定についてみると、平成14年改正によって既に7号規定が設けられ、上記2でみた平成23年以降の法整備の進展状況等を併せて考えれば、平成28年頃の時点では、様々な警備業務がある中で、被保佐人であることだけを理由として一律に警備員の欠格事由と定める本件規定は、職業の選択の自由を害し、不当な差別的取扱いを容認する規定となっており、憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたと考える。
4 さらに、上記2でみた法整備は、いずれも国会が自ら進めたものであり、平成28年頃の時点では、国会において、成年被後見人等を含む障害者の権利問題等に関する立法行為を積み重ねてきたことにより、憲法の人権理念を更に推し進めて合理的な検討を適切に行えば、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するものとしてその改廃等を行うべきことが明白になっていたと評価するのが相当である。なお、平成25年、国会は、成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた公職選挙法の規定を違憲と判断した平成25年東京地裁判決を受けて直ちに公職選挙法を改正したが、この一例は、国会において、成年被後見人等に対して行われる権利の制限が、権利の内容・性質等によってその制限が裁判所により違憲と判断される場合があり得ることに直面する機会になったということでもできよう。
この点について、多数意見は、平成29年3月(本件退職時点)において、本件規定が憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったということはできないと判示する。この判示部分からすれば、本件規定の違憲性が国会において明白であったと評価するものであるか否かは必ずしも明確でない。国会においてその違憲性が明白であったとは認められないとするものであるならば、私はこれに賛同することができない。国会は、障害者の権利保障と成年被後見人等に対する権利制限の縮減等を推進するための法整備を何年にもわたって継続したが、そうした法整備を続けることの意識の根底に基本的人権の尊重、個人の尊厳や平等原則といった憲法の人権理念があり、成年被後見人等を含む障害者の権利保障について更にこれを推進するための立法行為の必要性・重要性を認識していたと考える
べきことは、これまでに述べたとおりである。そして、その間、障害者の権利問題等について社会や国民の意識が高まったが、それを汲み取って立法化していったのは国会自身である。
また、本件規定の違憲性が国会において明白であったとは認められないと評価する立場からすれば、利用促進法の制定についてはあくまで成年後見制度の利用促進を図るためにもっぱらその阻害要因を除去すること等を目的とするものであって、憲法上の問題とは別のものというように理解することになるのかもしれない(多数意見の第3の2(2)イ参照)。しかし、仮に同法制定の主眼がそのようなものであったとしても、同法11条2号が基本方針の一つとして既存の権利制限条項について検討を加えて必要な見直しを行うべきことを定めた意義を決して軽視すべきではなく、同号の規定を憲法の人権理念と切り離されたものとして理解するのは相当ではない。言い換えれば、国会が憲法上の問題の存在について無自覚のままに上記内容を盛り込んだ見直し規定を設けたとは考え難い。
したがって、平成28年頃の時点では、上記のように法整備を推し進めてきた国会において、合理的な検討を適切に行えば、本件規定が、成年被後見人等について職業の選択の自由を害し、不当な差別的取扱いを容認する規定となっており、憲法上の問題があることを当然認識し、本件規定の改廃を行うべき状況にあったものと評価すべきであり、明白性を否定する立場には賛同することができない。
なお、上記明白性をめぐる論点について、私は、本件規定の違憲性が明白になった時期について反対意見のいずれとも見解を異にするのであるが、その理由は、平成28年に利用促進法が制定されることによって、それまでの障害者の権利保障関連の立法により定められた理念に基づき実施すべき各種施策がより具体化したものとなり、しかも目途とはいえ法制上の措置を講ずるべき期限が定められたとの事実を重く評価し、その時点に至り、本件規定の違憲性が確定し、かつ、それが明白になったと考えることにある。そして、このように、私は、本件規定の違憲性が確定した時期と
国会においてその違憲性が明白になった時期が同じ頃と考えるものであるが、これは、上記のように国会自らが法整備を進展させ、これに伴って違憲性が確かなものになったという特別な事情の下にあっては、自然なことと考える。
5 以上のとおり、私は、平成23年から平成28年にかけての法整備の積み重ねに基づき、平成28年頃の時点では本件規定の違憲性が確定したものとなり、かつ、同時点では国会において自らの立法行為の継続によってその違憲性が明白になっていたと考える。
もっとも、被上告人の本件退職時点との関係では、平成28年頃から平成29年3月までの間には約1年の期間しかないため、国会において正当な理由なく長期間にわたって本件規定の改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできないと考える。したがって、本件において、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとする多数意見の結論について賛同するものである。
裁判官三浦守の反対意見は、次のとおりである。
私は、本件規定が本件退職時点において憲法22条1項及び14条1項の規定に違反する点については、結論において多数意見に賛同するが、本件規定は、遅くとも平成14年改正時までに、憲法の上記各規定に違反していたものと考える。また、国家賠償法1条1項の適用の点については、多数意見と異なり、本件規定は平成14年改正時において憲法の上記各規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく本件退職時点まで長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったものであり、本件立法不作為は同項の適用上違法であるから、本件上告を棄却すべきものと考える。以下、理由を述べる。
第1 事実関係等について
1 平成14年改正に至る経緯等に関し、原審が適法に確定した事実関係等の概要(公知の事実を含む。)は、判示第1の3(1)に掲げるもののほか、2のとおりである。
2(1) 国際連合は、1982年(昭和57年)、国際障害者年(1981年(昭和56年))の「完全参加と平等」の趣旨をより具体的なものとするため、「障害者に関する世界行動計画」を採択するとともに、1983年(昭和58年)から1992年(平成4年)まで
の10年間を「国連・障害者の十年」と宣言するなどした。政府は、これらを踏まえ、昭和57年3月、国際障害者年推進本部において、「障害者対策に関する長期計画」を決定するなどした。
そして、政府は、「国連・障害者の十年」終了後も障害者対策を一層推進するため、平成5年3月、障害者対策推進本部において、「障害者対策に関する新長期計画」(以下「平成5年計画」という。)を策定した。
平成5年計画は、平成5年度からおよそ10年間にわたる施策の基本的方向と具体的方策を明らかにするものであり、その基本的な考え方として、基本的人権を持つ一人の人間として、障害者自身が主体性、自立性を確保し、社会活動へ積極的に参加していくことを期待するとともに、その能力が十分発揮できるような施策の推進に努めるとともに、障害者を取り巻く社会環境に存在する資格制限等による制度的な障壁等の種々の障壁を除去すること等により障害者が各種の社会活動を自由にできるような平等な社会づくりを目指すなどとし、分野別施策の基本的方向と具体的方策の中で、福祉の分野において、精神障害、視聴覚障害等障害を理由とする各種の資格制限が障害者の社会参加を不当に阻む障害要因とならないよう、必要な見直しについて検討を行うものとした。
(2) 国会は、平成5年12月、心身障害者対策基本法を改正し(以下、この改正を「平成5年改正」という。)、法律の題名を「障害者基本法」に改めるとともに、同法の目的として、障害者の自立と社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動への参加を促進することを目的とする旨を規定し、障害者の定義として、精神障害を明示して規定し、基本理念として、「すべて障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するものとする。」「すべて障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする。」と規定するなどした。
(3) 内閣府に設置された障害者施策推進本部は、平成11年8月、平成11年決定において、資格、免許又は業の許可等の欠格事由として障害者を表す身体又は精神の状態を掲げるなどする法令の規定(以下「障害者に係る欠格条項」という。)の見直しを行うこととした。
平成11年決定は、障害者に係る欠格条項について、障害者が社会活動に参加することを不当に阻む要因とならないよう、平成5年計画の推進のため、対象となる全ての制度について見直しを行い、障害及び障害者に係る医学的水準、障害及び障害者の機能を補完する機器の発達等科学技術的水準、先進諸外国における制度のあり方その他の社会環境の変化を踏まえ、制度の趣旨に照らして、従来の障害者に係る欠格条項が真に必要であるか否かを再検討し、必要性の薄いものについては障害者に係る欠格条項を廃止するものとし、当該欠格条項が真に必要と認められるものについては、①欠格、制限等の対象を厳密な規定に改正する、②絶対的欠格事由から相対的欠格事由に改正する、③障害者を表す規定から障害者を特定しない規定に改正する等の対処を行うものとし、警備業法の警備員の制限に関する規定については、障害者に係る欠格条項が真に必要な場合には、①及び②の方向で対処するものとした。
(4) 平成11年整備法に関する国会の審議においては、⑦成年後見人等に係る欠格条項を撤廃すべきである旨の参考人の意見、⑦同欠格条項を残すと老人や障害者への偏見を助長し、これらの者の社会参加が妨げられる旨の議員の発言、⑨欠格条項が存置された弁護士、弁理士、司法書士、薬剤師等の資格制限の必要性を問う議員の質問、⑩個別法令中に能力を個別に審査する規定を設ければ資格制限として足り、禁治産者や準禁治産者であることのみを理由に職業から排除するのは前近代的な発想であるから、残存する116種の資格制限についても次の見直しの際に再検討されたい旨の議員の発言等がされた。また、新しい成年後見制度の導入に禁治産や準禁治産という負のイメージを払拭して、皆が負い目を感じずに使うことができる新しい制度を作るという意義があるのであれば、欠格条項で門前払いというよりも、できる限り個別的に判断していくという方が方向性として正しいのではないかという趣旨の議員の質問に対し、政府参考人は、基本的な考え方としては正しいとしつつ、立法上の様々な価値を調和させていく中で複数の欠格条項を存置することになった旨の説明をした。
そして、平成11年11月、参議院法務委員会において平成11年整備法に係る法律案が可決された際、全会一致で、政府等は、新たな成年後見制度の実施に当たり、成年被後見人又は被保佐人であ
ることを欠格事由とする116件の資格制限規定については、更なる見直しを行うこと等について格段の努力をすべきである旨の附帯決議(以下「平成11年附帯決議」という。)がされた。
第2 本件規定の憲法適合性及びそれが違憲となるに至っていた時期について
1 本件規定の憲法適合性に関する判断の枠組みについて
本件規定は、被保佐人であることを警備員の欠格事由として定めており、被保佐人が精神上の障害を有することを理由として、被保佐人を被保佐人でない者と区別して、一律に狭義における職業選択の自由そのものを制約するものである。そして、被保佐人の精神上の障害は、本人の意思や努力によって変えることが困難であり、個人の生存と切り離すことができないものである。また、狭義における職業選択の自由は、経済活動としての性格が強い営業の自由と異なり、本人の生き方や自己実現としての性格が強く、個人の尊重及び幸福追求と密接に関わるものということができる。
これは、憲法21条1項の要請と14条1項の要請とが重なり合う問題であり、本件規定が上記の各規定に適合するか否かの判断においては、その一方の規定に関する判断において、他方の規定の要請に係る事情をも考慮する必要があり、相互に密接に関連し、考慮すべき事項が共通することから、両規定との関係で合憲性を肯定し得るためには、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものと解される。
そして、本件規定の目的(以下「本件立法目的」という。)は、判示第2の2(4)のとおり、重要な公共の利益に合致するものであるところ、本件立法目的のために必要かつ適切妥当な規制措置を設けることについて、立法府の判断には一定の裁量が認められるものの、上記のような憲法22条1項及び14条1項の要請により、立法府に広い裁量が認められるものではなく、その裁量の範囲は狭いというべきである。本件規定について、立法府の上記判断がその合理的裁量の範囲を逸脱し、憲法の両規定に違反するか否かを判断するに当たっては、具体的な事情に基づき慎重な審査を行う必要がある。
以上のとおり、本件規定の憲法適合性に関する判断の枠組みについては、多数意見に賛同する。
そして、平成11年整備法により本件規定が定められ、平成14年改正により7号規定が定められ、その後、令和元年の一括整備法により本件規定が削除された経緯等を踏まえると、本件規定の憲法適合性については、7号規定という具体的な代替措置を前提として、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その合理的な裁量の範囲を逸脱するか否かが問題となる。
2 本件規定が違憲となるに至っていた時期の検討について
本件においては、本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反し、国会が本件退職時点までに本件規定を改廃する立法措置をとらなかったという本件立法不作為が、国家賠償法1条1項の適用上違法であるかどうかが問題となるが、それが違法と評価されるためには、④本件退職時点において、本件規定が憲法に違反するに至っているだけではなく、⑥その違憲が明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の措置を怠っていることが必要と考えられる。
この場合、⑥の要件の関係は、遅くとも、本件立法不作為が正当な理由なく長期にわたると評価される時期までに、本件規定が憲法に違反し、その違憲が明白となるに至っていたかどうかが問題となるから、④の要件を満たす場合であっても、遅くとも、本件退職時点より前の上記時期までに、本件規定が憲法に違反するに至っていたかどうかの検討が必要である。
以上の観点から、本件規定の憲法適合性に関し、本件退職時点より前に本件規定が違憲となるに至っていた時期についても併せて検討する。
3 警備業務に必要な能力等について
(1) 警備業務は、他人の生命、身体、財産等を守ることを内容とする業務であり、その性質上、他人の権利や自由を侵害しかねず、不適切な警備業務の実施によって国民生活に大きな不安と混乱を与えるおそれがあるという側面を有しているため、警備員には、警備業務の実施に伴って発生する様々な事象に対し臨機応変に適切な対応をすることが求められ、これに必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行う能力が要求される。
他方で、警備業務は、警備業法2条1項各号に区分され、その内容には多種多様なものが含まれるところ、いずれも法律行為を行わない事実行為として定められており、その具体的な内容に応じ、
これを適正に行うために必要な認知、判断及び意思疎通の能力といっても、相当の違いがあると考えられる。また、警備員は、警備業者との雇用契約等に基づきその指揮監督の下に特定の警備業務に従事するものであるから、全ての警備員があらゆる警備業務に求められる高度の能力を備える必要がないことは明らかである。
(2) 平成11年民法改正による成年後見制度は、明治期に定められた禁治産及び準禁治産の制度を約100年ぶりに改めたものであって、本人の意思や自己決定の尊重、ノーマライゼーションの理念等と本人保護の理念との調和を旨とし、精神上の障害により判断能力が不十分であるため契約締結等の法律行為における意思決定が困難な者について、後見的役割を担う第三者がその判断能力を補うことにより、その権利利益の保護を図る制度である。
そして、被保佐人は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者として、家庭裁判所による保佐開始の審判を受けた者であり、選任された保佐人が、財産の管理・処分に関する一定の法律行為についての同意権や取消権等により、被保佐人の権利利益の保護を図るものとされる。
(3) 以上からすると、被保佐人に係る成年後見制度と本件規定とは趣旨・目的を異にしており、保佐開始の審判において審査される能力は、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力とは必ずしも一致するものではなく、被保佐人の中に、警備業務を適正に行うことができる者が一定程度いるということができる。
4 平成14年改正時までにについて
(1) 平成14年改正は、警備業法3条5号のうち精神病者であることを欠格事由とする部分を削除した上で、7号規定を設け、規則3条1項と併せて、精神機能の障害により警備業務を適正に行うことができない者を欠格事由とするものである。
そして、7号規定は、精神機能の障害を有する者を広く対象として、個別的審査により、警備業務を適正に行うことができないと認められる者を警備業務から排除しようとするものであり、この審査は、警備業者が、診断書等の提出や面接調査など、必要な資料の収集等を通じて、警備業務を適正に行うに当たって必要な能力の有無を個別的、実質的に審査することを前提にするものと解される。
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