その他令和8年3月23日

警備業法における被保佐人の欠格事由規定の合憲性等に関する最高裁判所大法廷判決

掲載日
令和8年3月23日
号種
号外
原文ページ
p.169 - p.174
出典:官報発行サイトの掲載情報を加工しています。AI 抽出や OCR に誤りが含まれる可能性があるため、 重要な確認は公式原文を基準にしてください。
AI要点

精神上の障害を理由とする職業選択の自由の規制及び立法不作為の国家賠償責任

抽出された基本情報
発行機関最高裁判所

本文と原文の対照

まず左側の本文を読み、必要な箇所だけ原文ページで確認できる構成です。

← 同日の官報に戻る
原文対照の表示オプション

警備業法における被保佐人の欠格事由規定の合憲性等に関する最高裁判所大法廷判決

令和8年3月23日|p.169-174|原文を見る

本文はAI抽出です。左の段落を選ぶと、右側の官報原文画像で該当箇所を照合できます。

公式原文ありAI抽出画像照合可誤りを報告
判決 令和5年(オ)第360号、同年(受)第445号地位確認等請求事件について、令和8年2月18日大法廷において次のような判決があった。(最高裁判所)
令和5年(オ)第360号 令和5年(受)第445号 判 決 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
上記当事者間の名古屋高等裁判所令和3年(ネ)第833号、同4年(ネ)第182号地位確認等請求控訴、同附帯控訴事件について、同裁判所が令和4年11月15日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は、次のとおり判決する。 主 文
1 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。 2 第1審判決中上告人敗訴部分を取り消す。 3 前項の取消部分に関する被上告人の請求をいずれも棄却する。 4 第1項の破棄部分に関する被上告人の附帯控訴を棄却する。 5 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理 由 上告代理人春名茂ほかの上告理由及び上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
第1 事案の概要
1 令和元年法律第37号(成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律。以下「一括整備法」という。)による改正前の警備業法14条、3条1号の規定は、被保佐人であることを警備員の欠格事由の一つとして定めていた(以下、上記規定のうち被保佐人であることを警備員の欠格事由として定めた部分を「本件規定」という。)が、同改正により、本件規定は削除された。
被上告人は、軽度の知的障害を有し、警備業を営む会社との間の雇用契約に基づき、警備員として交通誘導に係る警備業務に従事していたが、平成29年3月、被上告人についての保佐開始の審判
が確定した。これに伴い、警備業法上の警備員の欠格事由の発生を解除条件としていた上記雇用契約は終了し、被上告人は、上記会社を退職した(以下、この退職の時点を「本件退職時点」という)。 本件は、被上告人が、本件規定は憲法22条1項及び14条1項に違反し、国会が本件退職時点までに本件規定を改廃する立法措置をとらなかったこと(以下「本件立法不作為」という。)は違法であるなどと主張して、上告人に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料の支払を求める事案である。
2 関係法令の定めは、次のとおりである。
(1) 警備業法2条1項は、「警備業務」とは、事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園地等における盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務(1号)、人若しくは車両の雑踏する場所又はこれらの通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務(2号)、運搬中の現金、貴金属、美術品等に係る盗難等の事故の発生を警戒し、防止する業務(3号)及び人の身体に対する危害の発生を、その身辺において警戒し、防止する業務(4号)のいずれかに該当する業務であって、他人の需要に応じて行うものをいう旨を定めている。
同条4項は、「警備員」とは、警備業者の使用人その他の従業者で警備業務に従事するものをいう旨を定めている。
(2) 警備業法14条(平成16年法律第50号による改正前は7条)は、18歳未満の者又は3条1号から7号までのいずれかに該当する者は警備員となってはならない旨を定め(1項)、警備業者は14条1項に規定する者を警備業務に従事させてはならない旨を定めている(2項)。また、同法3条柱書きは、同条各号のいずれかに該当する者は警備業を営んではならない旨を定めている。
一括整備法による改正前の警備業法3条1号は、成年被後見人又は被保佐人(以下、併せて「成年被後見人等」という。)等を掲げていた。
3 原審の適法に確定した事実関係等の概要(公知の事実を含む。)は、次のとおりである。
(1) 警備業法の制定及び改正の経緯等
ア 昭和47年以前は、警備業に対して特段の法的規制はされていなかったが、警備業者の増加に伴い、警備先における警備員による窃盗や暴行等の事案が発生していたことを受け、同年7月、警備業務の実施の適正を図ることを目的として、警備業法が制定された(同年法律第117号)。
その後、警備業は活動領域を拡大させた一方、警備業者による法令違反、警備員の非行等の問題が多発し、警備業務に対する社会的信頼の確保が喫緊の課題となったことを受け、不適格業者の排除、警備員の非行・不祥事の防止、警備員の質的向上を図るため、昭和57年7月、警備業法の改正(同年法律第67号。以下「昭和57年改正」という。)がされた。昭和57年改正により、警備員の欠格事由(7条)として、禁治産者又は準禁治産者(3条1号)及び精神病者(同条5号)等が掲げられた(以下、昭和57年改正後の同法7条、3条1号の規定のうち準禁治産者であることを警備員の欠格事由として定めた部分を「本件前身規定」という。)。
イ 平成11年12月、成年後見制度を導入することを内容とする民法の改正(同年法律第149号。以下「平成11年民法改正」という。)等がされたことに伴い、民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(同年法律第151号。以下「平成11年整備法」という。)による警備業法の改正がされ、3条1号の「禁治産者若しくは準禁治産者」の文言が「成年被後見人若しくは被保佐人」に改められた。
平成11年整備法による関係法律の改正前は、禁治産者又は準禁治産者であることを欠格事由とする規定が150余(準用規定を含まない。以下同じ。)存在したが、同改正により、そのうち公的な機関による選任及び罷免・解任等の個別的な能力審査の手続が整備されている法律に設けられた40余が削除され、残りの110余は成年被後見人等であることを欠格事由とする規定(以下「成年被後見人等に係る欠格条項」という。)に改められた。参議院法務委員会において平成11年整備法に係る法律案が可決された際には、政府等は、新たな成年後見制度の実施に当たり、残された成年被後見人等に係る欠格条項について更なる見直しを行うこと等について格段の努力をすべきである旨の附帯決議がされた。
ウ 内閣府に設置された障害者施策推進本部は、平成11年8月の決定「障害者に係る欠格条項の見直しについて」(以下「平成11年決定」という。)において、資格、免許又は業の許可等の欠格事由
として障害者を表す身体又は精神の障害自体を掲げるなどする法令の規定の見直しを行うこととしたが、本件前身規定を含む禁治産者又は準禁治産者であることを欠格事由とする規定は、見直しの対象とはしなかった。
平成11年決定において、精神病者であることを警備員等の欠格事由とする警備業法の規定が見直しの対象とされたこと等を受け、平成14年11月、同法の改正(同年法律第108号。以下「平成14年改正」という。)がされた。平成14年改正により、同法3条5号の規定のうち精神病者であることを欠格事由とする部分が削除されるとともに、同条7号において、心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるものであることを欠格事由とする規定が設けられた(以下、同号に該当する者であることを警備員の欠格事由とする同法7条(平成16年法律第50号による改正後は同法14条)、3条7号の規定を「7号規定」という。)。また、平成15年3月、警備業の要件に関する規則(昭和58年国家公安委員会規則第1号。以下「規則」という。)の改正(平成15年国家公安委員会規則第2号)がされ、規則3条1項において、同法3条7号の国家公安委員会規則で定める者は精神機能の障害により警備業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする旨が定められた。
エ 警察庁が公表した警備業者当たりの警備員
数の分布の統計によれば、昭和56年6月末時点においては、警備員数100人以下の警備業者が全体の約93%、警備員数10人以下の警備業者が全体の約45%を占め、平成29年末時点においては、警備員数100人未満の警備業者が全体の約90%、警備員数10人未満の警備業者が全体の約35%を占めており、いずれの時点においても中小零細の企業が占める割合が高かった。
(2) 障害者の権利に関する条約の批准及び国内法の整備等の経緯
ア 平成18年12月、国際連合総会において、障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)が採択され、我が国は、平成19年9月、これに署名した。
障害者権利条約は、全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とし(1条前段)、障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害であって、様々な障壁との相互作用により他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げ得るものを有する者を含むと定義し(同条後段)、障害に基づくいかなる差別もなしに、全ての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すること(4条1項柱書き)、並びに、このために、障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、又は廃止するための全ての適当な措置(立法を含む。)をとること(同項(b))等を締約国の一般的義務として約束する旨を定めている。また、障害者権利条約は、平等及び無差別(5条)及び法律の前にひとしく認められる権利(12条)に関する条項を設けているほか、労働及び雇用に関し、締約国が、あらゆる形態の雇用に係る全ての事項に関し、障害に基づく差別を禁止すること等の措置をとることにより、労働についての障害者の権利が実現されることを保障し、及び促進すること等を定めている(27条1項(a))。 イ その後、障害者基本法の改正(平成23年法律第90号)、障害者自立支援法の改正(平成24年法律第51号。改正後の題名は障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」という。)の制定及び障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という。)の改正(同年法律第46号)等が行われ、障害者権利条約の理念や差別の禁止等に関する基本原則が国内法に反映された。我が国は、これらの国内法の整備を踏まえ、平成26年1月、障害者権利条約を批准した(同年条約第1号)。上記の改正後の障害者基本法は、目的規定において、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものである旨を明示し(1条)、障害者について、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害が
ある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいうと定義し(2条1号)、障害を理由とする差別の禁止等に関する基本原則(4条)を定めている。また、障害者差別解消法は、障害者基本法の理念にのっとり、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別の禁止等(7条、8条)を定めており、上記の改正後の障害者雇用促進法は、労働者の募集・採用時及び採用後における障害を理由とする差別の禁止等(34条、35条、36条の2、36条の3)を定めている。障害者差別解消法及び上記の改正後の障害者雇用促進法のうち差別の禁止等に関する部分(以下、併せて「障害者差別解消法等」という。)は、約3年の準備期間を経て、平成28年4月に施行された。 (3)成年後見制度の利用の促進に関する法律の制定等の経緯 ア 平成22年7月、有識者や関係機関の担当者が参加した成年後見制度研究会において、成年後見制度の運用上の改善策に関する研究報告がされた。同報告において、成年後見の類型は主として財産の処分等に必要な判断能力に照らして決められているのであるから、成年後見等が開始したとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえない、成年被後見人等に関する資格制限規定が成年後見制度の利用を阻害する要因となることはできるだけ避けるべきであるなどの見解が示された。 イ 平成22年10月、成年後見法世界会議において、成年後見制度の適切な利用を訴えるための「成年後見制度に関する横浜宣言」が採択された。同宣言においては、我が国の課題の一つとして、成年後見制度に多く残されている欠格事由は撤廃すべきである、特に後見開始決定に伴う選挙権の剥奪には合理的根拠はなく、憲法で保障された普通選挙の理念に反し、基本的人権を著しく損なうものであるとされた。 ウ 東京地方裁判所は、平成25年3月、成年被後見人である者が、国に対し、次回の衆議院議員及び参議院議員の選挙において投票をすることができる地位にあることの確認を求めた訴訟において、成年被後見人が選挙権を有しない旨を定めた同年法律第21号による改正前の公職選挙法11条1
項1号の規定は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反し、無効であるとして、請求認容の判決をした(以下、この判決を「平成25年東京地裁判決」という。)。同年5月、上記改正により、上記規定は削除された。 エ 平成28年4月、成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進することを目的として、成年後見制度の利用の促進に関する法律(同年法律第29号。以下「利用促進法」という。)が制定され、同年5月、施行された。 利用促進法は、成年後見制度の利用の促進は、成年被後見人等が、成年被後見人等でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと等の成年後見制度の理念を踏まえて行われるものとする旨を定め(3条1項)、基本方針の一つとして、成年被後見人等の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について検討を加え、必要な見直しを行う旨を定めており(11条2号)、成年被後見人等の権利の制限に係る関係法律の改正等の基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上の措置については、利用促進法の施行後3年以内を目途として講ずるものとした(9条)。 オ 平成29年3月、「成年後見制度利用促進基本計画について」等が閣議決定され、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度について、成年後見制度の利用を躊躇させる要因の一つであるとされていること等が指摘された上で、今後、政府において検討を加え、速やかに必要な見直しを行うこととされた。 内閣府に設置された成年後見制度利用促進委員会は、同年12月、当時170余の法律に設けられていた成年被後見人等に係る欠格条項をいずれも削除し、必要に応じて代替的に個別的・実質的な審査の規定を整備する方針を示した。 警備業法を所管する警察庁は、平成30年2月、成年被後見人等であることを警備員の欠格事由として定める規定の削除について政策評価を行い、心身の障害がある者の適格性に対する個別的・実質的な審査によって警備業務の特性に応じて必要となる能力の有無を判断する7号規定が既に設けられているため、特段の影響は想定されないと評価した。
カ 平成30年3月、上記方針により見直しを行った一括整備法に係る法律案が国会に提出され、令和元年6月、一括整備法が成立した。これにより、本件規定を含む成年被後見人等に係る欠格条項は、その大半が削除され、その余も同年中に成立した改正法により削除された。 第2 本件規定の憲法適合性について 1 原審は、本件退職時点において、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項のいずれにも違反していた旨判断した。 所論は、本件退職時点において、本件規定は憲法22条1項及び14条1項のいずれにも違反するものではなかったとして、原審の上記判断には憲法22条1項及び14条1項の解釈適用の誤りがある旨をいうものである。 2(1) 本件規定は、被保佐人であることを警備員の欠格事由として定めており、被保佐人である者の職業選択の自由を制約するとともに、警備員となる資格について、被保佐人である者と被保佐人でない者とを区別するものである。 (2) 憲法22条1項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由も保障しているところ、こうした職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため、その同項適合性を一律に論ずることはできず、その適合性は、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。この場合、上記のような検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものであるところ、その合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭があり得るのであって、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべきものである(以上につき、最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。
また、憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定が、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。 (3) 本件規定は、警備員の欠格事由を定め、およそ被保佐人が警備員となってはならないこととするものであるから、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制ではなく、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課すものであって、職業の自由に対する強力な制限となるものである。その上、本件規定は、被保佐人を対象とするものであるところ、保佐開始の審判は、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者についてされるものであるから(民法11条)、本件規定は、被保佐人が精神上の障害を有することを理由として上記の制限をするものということができる。このように、本件規定は、障害者である被保佐人を被保佐人でない者と区別して一律に規制の対象とし、精神上の障害を理由として狭義における職業選択の自由そのものを制約するものである。 以上のような本件規定の内容、性質に照らすと、本件規定の憲法22条1項適合性の判断と憲法14条1項適合性の判断は、相互に密接に関連し、検討に当たって考慮すべき事項が共通するものであるということができるのであって、上記の各条項との関係で本件規定の合憲性を肯定し得るためには、本件規定による規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものと解するのが相当である。
(4) 本件前身規定及び本件規定の制定の経緯や内容に照らせば、本件規定の目的は、警備業務が他人の生命、身体、財産等の安全を守ることを内容とする業務であることに鑑み、警備業務の実施の適正を図るとともに、依頼者及び第三者から警備員としての信頼を確保し得る者が警備業務に従事することを担保することにあるということができる。このような立法目的自体は、重要な公共の利益に合致するものである。
この目的のために本件規定のような規制措置を設ける必要があるかどうかや、具体的にどのような規制措置が適切妥当であるかを立法府が判断するに当たっては、警備業務の実態や警備業者の業務態勢、保佐を含む成年後見制度の運用の在り方、同制度が対象とする精神上の障害を有する者を取り巻く状況等の諸事情を踏まえ、警備業務に要求される能力、保佐開始の審判がされる者の能力及び立法目的を達成し得る代替措置の有無等について評価を行う必要があり、こうした評価は一義的に定めるものではないから、上記の立法府の判断には一定の裁量が認められるが、他方で、本件規定が精神上の障害を有することを理由として被保佐人を被保佐人でない者と区別して一律に規制の対象とするとともに、被保佐人の狭義の職業選択の自由を制約するものであることを踏まえると、立法府に広い裁量が認められるものではないというべきである。そして、立法府の上記判断がその合理的裁量の範囲を逸脱したと認められる場合には、本件規定は、憲法22条1項及び14条1項に違反することとなる。
3(1) 前記事実関係等によれば、警備先における警備員による窃盗や暴行等の事案が発生していたことを受けて昭和47年に警備業法が制定され、その後、警備業の活動領域の拡大に伴い、警備業者による法令違反や警備員の非行等の問題が多発したことを受けて、警備業務の実施の適正を図るなどの目的のために昭和57年改正が行われたものである。本件前身規定は、上記目的のために、準禁治産宣告を受けた者の判断能力に着目して警備員について欠格事由を定めたものと解される。
警備業務は、警備員の有形又は無形の影響力によって他人の生命、身体、財産等を守ることを内容とする業務であり、その性質上、他人の権利や自由を侵害しかねず、不適切な警備業務の実施によって国民生活に大きな不安と混乱を与えるおそれがあるという側面を有している。そのため、警備員には、警備業務の実施に伴って発生する様々な事象に対し、適法、妥当かつ臨機応変に対応することが求められ、これに必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行う能力が要求される。
これに対し、昭和57年改正の当時、準禁治産宣告の対象とされていた心神耗弱者(平成11年民法改正前の民法11条)は、一般に、精神障害の程度が心神喪失のように完全に意思能力を失うまでには至らず、不完全ながら判断能力を有する者をい
うと解されていたものである。準禁治産の制度は、精神能力の不完全な者の財産を保護するための制度であることからすると、準禁治産宣告において審査される判断能力は、上記のような警備業務を適正に実施するに当たって必要な能力と完全に一致するものではないものの、準禁治産宣告を受けた心神耗弱者については、精神障害による判断能力の低下が公的機関である家庭裁判所によって確認されているのであるから、当時の知見の下では、警備業務の適正な実施を期待することができないとみることには相応の合理性があったということができる。しかも、家庭裁判所は、準禁治産宣告をするには、本人の心神の状況について、必ず、医師その他適当な者に鑑定をさせなければならないものとされているのであるから(平成12年最高裁判所規則第1号による改正前の家事審判規則24条、30条)、準禁治産宣告は、精神医学上の検査や診断に基づく、専門的で信頼性の高い判断であったというべきである。
他方で、警備業者については、中小零細の企業が圧倒的多数を占めており、上記のように警備業者による法令違反等の問題が多発していた状況の下では、警備員の資質につき警備業者による自発的な維持管理を期待することは困難であったということができる。
そうすると、昭和57年改正の当時、本件前身規定について、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であるとした立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできない。
(2) その後、平成11年民法改正により新たに成年後見制度が導入され、これに伴って本件前身規定は本件規定に改められることになった。また、平成14年改正により7号規定が設けられた。
7号規定は、規則3条1項の規定を併せて考えると、精神機能の障害により判断能力が低下した者を対象とする規定であるということはできるものの、保佐開始の審判のように公的機関による判断がされるものではなく、判断の基礎となる資料の収集、分析、評価を含め、警備業者の自発的判断に委ねられているものであるため、本件規定がなくともその立法目的を達成するのに十分なものであるかどうかを直ちに見極めることは困難であったというべきである。
そうすると、平成14年改正の当時においても、本件規定が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その合理的裁量の範囲を逸脱するものであったということはできない。
(3) しかしながら、その後、本件退職時点に至るまでに、本件規定を取り巻く諸事情は、変化したというべきである。
すなわち、成年後見制度の導入やその後の利用促進の動きの中で、保佐を含む成年後見制度は、主として財産の処分等に関する判断能力に着目したものとして理解されるようになり、成年被後見人等に係る欠格条項については、成年後見制度の利用を阻害するものとして、その見直しが求められることとなった。また、平成22年には、成年後見制度の運用上の改善策に関する研究報告において、成年後見等が開始したとしても、その余の能力が直ちに欠如しているとはいえないなどと評価されるようになった。
そして、平成23年から平成25年にかけて障害者権利条約の批准に向けた国内法の整備が進められ、平成26年には同批准がされ、その後、平成28年には障害者差別解消法等が施行されるに至った。障害者権利条約の批准に伴い整備された国内法は、障害者の定義を新たなものとした上で、障害者が人権を保障され、尊厳を尊重されるべき旨を明示するなどしており、社会における障害の捉え方の変化等を受けて、福祉や保護を中心とした障害者施策を法的な権利の保障を中心とするものへと転換していく流れを反映させたものであったということができる。これら障害者権利条約の批准やこれに伴う国内法の整備等の一連の動きとあいまって、徐々に障害者を取り巻く社会や国民の意識の変化が進み、障害者の権利の保障の在り方が大きく変容することとなった。障害者の労働、雇用との関係でも、障害者差別解消法等の成立から施行までに約3年の準備期間が設けられ、その施行に向けた準備の過程で障害を理由とする差別の禁止等に関する考え方が行政機関等や事業者に周知されるなどしたことにより、労働者について障害を理由とする差別が禁止されるべきであると考える考え方が確立するに至ったというべきである。また、平成28年に制定された利用促進法にお
するものであることから、憲法の各条項ごとに適合性を判断すること(もちろん、それも可能であるが、)よりも、両方の条項の趣旨を総合した形で検討することが、より事柄の性質に合った判断が可能となると考えられる。 多数意見は、精神上の障害を理由とする狭義の職業選択の自由に対する規制であることを重視して、これまで許可制等の憲法22条1項適合性の審査に用いられてきた比較的厳格な基準をとることとして、本件規定による規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを、実体的な審査基準とした。そして、本件規定の立法目的については重要な公共の利益に合致するとした上で、この立法目的を達成するためにどのような規制措置を設けるか(その規制措置は、必要かつ合理的な措置でなければならない。)については、立法府の判断に一定の裁量が認められるが、本件規定が精神上の障害を理由として被保佐人を被保佐人でない者と区別し、狭義の職業選択の自由を制約するものであることから、その裁量は狭いものとなるとして、ここでも厳格な審査をすることとしている。
憲法14条1項適合性判断に当たっては、区別をすることの立法目的の合理性ないし正当性と区別の具体的内容が立法目的に合理的に関連するものであることが問題にされることが多い。本件規定の立法目的が上記のとおり重要な公共の利益に合致するというのであれば、憲法14条1項適合性判断においても立法目的の合理性ないし正当性が認められるのはいうまでもない。その区別の具体的内容は、上記の規制措置と同一であるので、憲法22条1項適合性で問題としている、立法府の採用した規制措置が必要かつ合理的であるとの裁量判断が合理的な範囲を逸脱したものとなる場合には、憲法14条1項適合性判断においても立法目的との合理的な関連性を欠くことになることは明らかである。
以上のとおり、本件規定の合憲性判断において、憲法14条1項適合性の観点からアプローチしたとしても、多数意見が説示した事情と共通する事項を考慮し検討した上で、大枠において同様な審査をした上で同じ結論に至ることになる。多数意見のとおり憲法22条1項適合性を重視したアプローチをとるか、憲法14条1項適合性を重視したアプローチをとるかは、理論的にはいずれもあり得る
と考えるが、問題となっている事柄の本質により近いものを採用した方が関係者の理解を得られやすいものになろう。 2 多数意見では、本件規定に係る立法府の判断が合理的裁量の範囲を逸脱するに至ったという判断において、障害者権利条約の署名(平成19年9月)から批准(平成26年1月)に至る経過を重要な事情として挙げている。そして、障害者権利条約やその批准に向けてされた国内法の制定・改正を通じて、障害者の人権が保障されその尊厳が尊重されるべきとされたことなどから、社会における障害の捉え方が変化したことを指摘している。具体的には、いわば障害者を保護の「客体」とし、福祉や保護を中心としたものであった障害者施策から、むしろ障害者を権利行使の「主体」とし、その法的な権利の保障を充実させる障害者施策を中心としたものへ転換させていった(前者の施策も継続されていくべきであることはいうまでもない。)ことに注目すべきであろう。こうしたパラダイム転換の明示的な契機となり推進力となったのは、障害者権利条約の批准やその批准に向けてされた国内法の整備等の一連の動きであるが、その動きが進むことと並行して、社会や国民の意識もこうしたパラダイム転換が当然のことであると認識し、転換を踏まえた障害者施策が今後も推進されていく(その結果、トータルとしての障害者保護施策が充実したものとなる)べきであるとの意識が時間をかけて浸透し深まっていったものと考えられる。そして、この一連の法的な整備等の動き、それとあいまって進んだ社会・国民の認識・意識の深化によって、本件規定により一律に被保佐人が警備業務から排除されることの不利益が看過し難いと評価されるものとなり、本件規定の規制措置の必要性・合理性についての立法府の判断が合理的裁量の範囲を逸脱すると確定的に判断できる状態となっていったというべきである。本件規定の違憲性は、このような時間の経過をたどって高まり確定的なレベルに達したと評価できるものであることから、憲法違反となった時期を一義的に捉えることは困難である。
多数意見が、本件の憲法判断の基準時である本件退職時点において本件規定が憲法22条1項及び14条1項に違反するに至っていたとする一方、それ以前に本件規定が違憲となるに至った具体的な時期を明示していないのは、以上のような理由によるものである。
裁判官岡正晶の補足意見は、次のとおりである。 1 私は多数意見に賛同するものであるが、「第3 本件立法不作為の国家賠償法上の違法性の有無について」につき、次のとおり多数意見に付加して私見を述べる。
2 多数意見第3の2(1)記載の判断枠組みのうち「法律の規定が憲法の規定に違反することが明白であること」については、国会議員の立法不作為が例外的に違法の評価を受ける場合を画する要件の要素となるものであり、次のような事情をも考慮の上、慎重に判断することが相当と考える。 まず第1に、違法か否かが問題となる行為の主体は、立法府(国会議員)である。いうまでもなく、立法府は、三権分立の一つの機関であり、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。また、立法府がいつかいかなる立法行為を行うかは、本来、立法府の裁量に属する問題であるのに対し、立法不作為が国家賠償法上違法と評価されるのは、立法府が一定の立法義務を負うことを前提に、これを怠ったと評価される例外的な場合である。
第2に、法律の規定が憲法の規定に違反する場合、本来は、立法府自らが当該法律の規定の改正ないし廃止を行うことによってその是正を図るべきであり、これがとるべき対応の基本であり原則である。国会議員の立法過程における行動について、国が個々の国民に対して国家賠償法に基づく損害賠償責任を負うのは、上記対応だけでは不十分な場合の例外的な救済措置というべきである。
第3に、国会議員の立法不作為につき国家賠償法に基づく損害賠償責任を認めるということは、国会議員に、個々の国民に対し、特定の法律の改正等を行う法的注意義務が生じていたことを前提として、国庫から損害賠償金(金銭)を支払うことを意味する。そしてこの場合に支払請求をすることができる者は、法律の規制が通常一定の広がりを持つことから、通常、一人ではなく、複数又は多数になる場合が多いと思われ、この点も考慮する必要がある。
3 「法律の規定が憲法の規定に違反する」か否かを判断する際には、当該法律における規制の目的、対象、方法等の性質及び内容、さらには立法府の合理的な裁量の範囲を逸脱するか否かなど
を総合的に考慮することを要し、複雑な判断を伴う場合が多い。「法律の規定が憲法の規定に違反する」という判断・認識は、「憲法の規定との関係が問われる」、「憲法解釈上疑義がある」、「違憲の疑いが濃い」などの認識や、「憲法に示された価値・理念をより充実させるために法改正が望ましい」といった立法政策上の判断・意見とは大きく異なるというべきである。
また、上記2のとおり、「明白である」ことは、国会議員の立法不作為が例外的に違法の評価を受ける場合を画する要件の要素となるものである。 このことからすると、「明白である」か否かの判断においては、基準となる時点において、国会議員の多数が「法律の規定が憲法の規定に違反する」と判断・認識すべきであったといえるか否かが問題とされるべきであって、国会議員の多数が現実にそのように判断・認識していた場合のほか、現実の判断・認識がない場合でも、仮に、当時、国会議員が意識的かつ合理的に検討したならば、容易に、上記の判断・認識に到達していたであろうといえる場合等が含まれると考えられる。ただし、上記2記載の各事情を踏まえると、この点の判断は慎重に行う必要があるというべきである。
4 これを本件についてみると、本件退職時点において、本件規定が憲法の規定(22条1項及び14条1項)に違反することが明白であったとはいえないと考える。その理由としては、多数意見第3の2(2)記載のもののほか、次の事情が挙げられる。
(1) 私も、多数意見第2のとおり、本件退職時点において、本件規定は憲法の規定に違反していたと判断するものである。
しかし、これは現時点における判断であって、本件退職時点において上記のように判断していたものではない。
上記3記載のとおり、「法律の規定が憲法の規定に違反することが明白であるか否か」の判断においては、基準となる時点において、国会議員の多数が、「法律の規定が憲法の規定に違反する」と判断・認識すべきであったといえるか否かが問題となるところ、本件退職時点で、多数意見第2のように具体的な分析・検討に基づき「本件規定は、立法府の合理的な裁量の範囲を逸脱しており、憲
p.169 / 6
読み込み中...
警備業法における被保佐人の欠格事由規定の合憲性等に関する最高裁判所大法廷判決 - 第169頁
テキスト領域
選択中
非公開 (PII)

関連するその他